被相続人が、自宅のほかにアパートや土地など、複数の不動産を所有していたケースは珍しくありません。今回は、複数の不動産を相続する場合の登記の進め方について解説します。
同じ相続人が同じ内容で相続する場合は、まとめて1件の申請でOK
同一の管轄法務局内にある不動産であれば、同じ相続人が同じ持分で相続する場合、複数の不動産をまとめて1件の登記申請書で申請することができます。たとえば、「自宅の土地・建物」と「近くの畑」を、すべて長男が相続する場合、これらをまとめて1つの申請書に記載して申請できます。
登録免許税も、それぞれの不動産の評価額を合算してから計算できるため、個別に計算する場合と比べて、端数処理の回数が減るというメリットもあります(登録免許税の計算方法については、別の記事で詳しく解説しています)。
相続人や持分が異なる場合は、不動産ごとに申請が必要
一方で、不動産ごとに相続する人や持分割合が異なる場合は、まとめて1件で申請することはできず、不動産ごとに個別の登記申請が必要になります。
具体例で見てみましょう。
被相続人(父)が、次の3つの不動産を所有していたとします。
- 自宅の土地・建物(A市)
- 収益アパート(A市、自宅とは別の地番)
- 実家から離れた場所にある山林(B市)
遺産分割協議の結果、「自宅は長男が単独で取得」「アパートは長男と長女が2分の1ずつ共有で取得」「山林は次男が単独で取得」と決まった場合、申請は次のように分かれます。
- 自宅(土地・建物):長男単独名義への移転登記(1件の申請でまとめられる)
- アパート:長男・長女がそれぞれ2分の1ずつ取得する移転登記(自宅とは相続人・持分が異なるため、別の申請書が必要)
- 山林:次男単独名義への移転登記(さらに別の申請書が必要。加えて、所在地がB市のため、管轄法務局も自宅・アパートとは異なる可能性があります)
このように、「誰が」「どの割合で」取得するかが不動産ごとに異なると、申請書も登録免許税の計算も、それぞれ別々に行うことになります。逆に言えば、自宅とアパートを両方とも長男が単独で取得するのであれば、この2つは(同じ管轄法務局内であれば)1件の申請書にまとめることができます。
不動産の所在地が異なる法務局の管轄にまたがる場合
相続する不動産が、複数の都道府県や、離れた地域にまたがっている場合、それぞれの不動産の所在地を管轄する法務局に、個別に申請する必要があります。
たとえば、東京都内の自宅と、実家のある地方の土地を両方相続する場合、東京法務局(または管轄支局)への申請と、実家所在地を管轄する法務局への申請を、それぞれ別に行うことになります。同じ法務局管内であれば1件にまとめられる場合でも、管轄をまたぐ場合はまとめることができません。
複数の不動産があると、見落としが起きやすい
複数の不動産を相続する場合、次のような見落としが起きやすい点にも注意が必要です。
- 名寄帳を確認せず、把握していない不動産を見落とす:固定資産税の納税通知書に記載されている不動産だけで判断すると、非課税の私道や、共有持分の不動産などが漏れることがあります。市区町村役場で「名寄帳」を取得し、被相続人名義のすべての不動産を確認することが重要です
- 遠方の不動産の存在に気づかない:被相続人が過去に住んでいた地域や、実家のある地域に、把握していなかった不動産(山林や農地など)を所有していることもあります
- 一部の不動産だけ相続登記をして満足してしまう:複数の不動産のうち、一部だけ登記をして、残りを後回しにしてしまうケースもあります。義務化により、それぞれの不動産について個別に申請義務が生じる点に注意が必要です
名寄帳の活用
名寄帳(なよせちょう)とは、同一の市区町村内にある、特定の人が所有する不動産を一覧にした帳簿です。市区町村役場の窓口で、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)を提示して請求できます。
ただし、名寄帳は市区町村ごとに管理されているため、被相続人が複数の市区町村に不動産を所有している可能性がある場合は、それぞれの市区町村で個別に取得する必要があります。心当たりのある地域がある場合は、忘れずに確認しておきましょう。
「所有不動産記録証明制度」で、全国の不動産を一括確認できる
2026年(令和8年)2月2日から、「所有不動産記録証明制度」という新しい制度がスタートしました。これは、特定の人物(本人または亡くなった方)が、登記名義人として記録されている不動産を、全国規模で一括検索し、一覧にして証明書として発行してもらえる制度です。
名寄帳が市区町村ごとにしか調べられないのに対し、この制度は、全国どこの法務局・地方法務局の窓口でも請求でき、その1回の請求で全国の不動産が対象になるという点が大きな違いです。「実家から離れた土地に、把握していない不動産があるかもしれない」というケースでの見落とし防止に、特に有効です。
- 請求できる人:本人(法人を含む)、相続人・一般承継人、委任を受けた代理人
- 手数料:証明書1通につき、窓口請求で1,600円程度(オンライン請求の場合はやや安くなります)
- 請求方法:法務局の窓口、郵送、オンラインのいずれでも可能
ただし、万能というわけではなく、次の点には注意が必要です。
- 未登記の建物(登記自体がされていない古い建物など)は、この制度では把握できません
- 登記簿上の氏名・住所が、亡くなった時点の氏名・住所と一致していない(結婚による改姓や、転居による住所変更の登記がされていないなど)場合、検索条件によっては、その不動産が漏れてしまう可能性があります
こうした限界があるため、「所有不動産記録証明制度」と「名寄帳」は、どちらか一方だけでなく、両方を組み合わせて確認するのが確実です。特に、被相続人の登記簿上の住所が転居前のままになっているケースは少なくないため、心当たりがある場合は、旧住所も検索条件に含めて請求することをおすすめします。
費用面での考え方
複数の不動産をまとめて申請できる場合、司法書士に依頼する際の報酬も、不動産の数に応じて加算される形が一般的ですが、まとめて手続きすることで、個別に依頼するよりも効率的に進められることが多いです。正確な費用については、対象となる不動産の数や内容によって変わるため、事前の見積もりをおすすめします。
まとめ
- 同じ相続人が同じ持分で相続する場合、同一管轄内の複数の不動産はまとめて1件で申請できる
- 相続人や持分が異なる場合は、不動産ごとに個別の申請が必要
- 管轄の法務局が異なる場合も、それぞれ個別に申請する
- 名寄帳を活用し、把握していない不動産がないか確認することが重要
- 2026年2月開始の「所有不動産記録証明制度」を使えば、全国の不動産を一括で確認できる
複数不動産の相続登記、あなたはどれくらい分かる?
記事の内容から3問出題します。全部解けるかチャレンジしてみましょう。


