結論:認知症で判断能力が低下すると、不動産の売却や預貯金の引き出しが一切できなくなります。判断能力があるうちに家族信託を組んでおけば、信頼できる家族が財産管理を引き継ぎ、生活や資産活用を止めずに済みます
以下、実際によくいただく相談内容をもとに、家族信託がどのように問題を解決するのかを具体的に見ていきます。
相談事例:賃貸アパートを持つ75歳の父親と、長男からの相談
ご相談者:長男(48歳・会社員)
「父(75歳)は、まだ元気で、しっかりしていますが、最近物忘れが増えてきたように感じます。父はアパートを1棟所有していて、その家賃収入で生活していますが、もし将来認知症になってしまったら、アパートの管理や、いざというときの売却ができなくなるのではと心配しています。成年後見制度も調べてみたのですが、手続きが大変そうで、家庭裁判所に財産状況を報告し続けるのも負担に感じています。何かいい方法はないでしょうか。」
このようなご相談は、非常に多くいただきます。以下、この事例に沿って、家族信託がどのように役立つのかを解説します。
Q1. 認知症になると、具体的に何ができなくなるのですか?
A. 不動産の売却、賃貸借契約の締結・更新、預貯金の引き出しなど、財産に関するほぼすべての法律行為ができなくなります。
判断能力が低下すると、法律上「意思能力がない」と判断され、契約行為が無効になる可能性があります。金融機関も、本人の判断能力に疑いがあると分かった時点で、口座を凍結し、家族であっても自由に引き出せなくなるのが実務上の対応です。
このケースでは、アパートの新規賃貸借契約、契約更新、修繕の発注、将来的な売却といった行為がすべて止まってしまうリスクがあります。家賃収入が入り続けても、それを使って必要な支出(修繕費、税金の支払いなど)ができなくなる可能性もあります。
Q2. 成年後見制度ではダメなのでしょうか?
A. 使えないわけではありませんが、この事例のように「賃貸経営を柔軟に続けたい」場合には、制約が大きいことがあります。
法定後見制度を利用すると、家庭裁判所が選任した後見人(必ずしも家族とは限りません)が財産管理を行い、家庭裁判所の監督のもとで手続きを進めることになります。
- 後見人が親族以外の専門職に選ばれることもある
- 財産状況を定期的に家庭裁判所へ報告する義務がある
- 本人の生活に直接必要のない支出(積極的な資産活用など)は認められにくい傾向がある
賃貸経営のように、状況に応じて柔軟な判断(空室対策、修繕、将来的な売却など)が求められる財産については、後見制度だけでは対応しづらい場面が出てきます。
Q3. 家族信託を組むと、具体的にどう変わりますか?
A. 判断能力があるうちに、信頼できる家族(この事例では長男)を受託者とする信託契約を結んでおくことで、判断能力低下後も、途切れることなく賃貸経営を継続できます。
この事例であれば、次のような設計が考えられます。
- 父を委託者兼受益者、長男を受託者として信託契約を結ぶ
- アパートの所有権を長男(受託者)に信託を原因として移転し、信託の登記を行う
- 長男が受託者として、入居者募集、契約更新、修繕発注、必要に応じた売却などを行う
- 家賃収入から必要経費を差し引いた分は、受益者である父の生活費として渡す
この仕組みを作っておけば、父の判断能力が低下した後も、長男がこれまでどおりアパートの管理を続けられます。家庭裁判所への定期報告も不要で、実務上の負担が大きく軽減されます。
Q4. 信託を組んだあと、父自身の生活に制約はありますか?
A. 信託した財産以外は、これまでどおり父自身が自由に管理できます。
家族信託は、信託契約で指定した財産だけが対象になります。この事例であれば、アパートとその関連の金銭は信託財産になりますが、それ以外の預貯金や自宅などは、父が引き続き自分の判断で管理できます(ただし、それらの財産についても認知症対策をしたい場合は、あわせて信託の対象に含めることも可能です)。
Q5. 長男(受託者)に大きな負担がかかりませんか?
A. 帳簿の作成や信託財産の分別管理など、一定の事務負担は生じますが、家庭裁判所への定期報告のような負担はありません。
受託者には、信託財産と自分自身の財産を区別して管理する義務や、帳簿等を作成する義務があります。ただし、これは家庭裁判所に対して行う後見の報告に比べると、実務上の負担は軽いとされています。信託契約の中で、専門家(司法書士など)による継続的なサポートを受けられる体制を組んでおくことも可能です。
Q6. このケースで、遺言は不要になりますか?
A. いいえ、信託していない財産については、別途遺言で承継先を決めておくことをおすすめします。
この事例では、アパートは信託財産になりますが、自宅や預貯金など信託に含めていない財産については、家族信託ではカバーされません。父が亡くなった後にこれらの財産をどう分けるかは、遺言で別途定めておくのが望ましい対応です。
この事例から分かる、認知症対策として家族信託が向いている人の特徴
- 賃貸不動産など、判断能力低下後も継続的な管理が必要な財産を持っている
- 信頼して財産管理を任せられる家族がいる
- 家庭裁判所の監督下に置かれることに負担を感じている
- 判断能力が「まだ」しっかりしている(この対策は、判断能力があるうちにしか始められません)
逆に、すでに判断能力の低下が進んでいる場合は、信託契約を結ぶこと自体が難しくなるため、法定後見制度を検討することになります。認知症対策としての家族信託は、「早めに動く」ことが何より重要です。
まとめ
- 認知症になると、不動産の売却や預貯金の引き出しなど、財産管理のほとんどができなくなる
- 成年後見制度は利用できるが、家庭裁判所の監督下に置かれ、柔軟な資産活用がしにくい面がある
- 家族信託を判断能力があるうちに組んでおけば、信頼できる家族が財産管理を継続できる
- 信託していない財産は対象外になるため、遺言もあわせて検討する必要がある
- 対策は「判断能力があるうちに」始める必要があり、先延ばしにするほど選択肢が狭まる
「うちも似たような状況かもしれない」と感じた方は、早めのご相談をおすすめします。
認知症対策の家族信託、あなたはどれくらい分かる?
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