結論:家族信託と遺言は「役割が違う」ので、どちらか一方ではなく、状況に応じて使い分ける(または組み合わせる)のが正解です
- 遺言は「亡くなった後」の財産の行き先を決めるもの
- 家族信託は「生きている間の財産管理」から「亡くなった後の承継」まで対応できるもの
- 認知症などで判断能力が低下した場合に備えたいなら、遺言だけでは不十分で、家族信託の検討が必要
- 家族信託を組んでも、信託していない財産については遺言が必要になる
以下、それぞれの疑問について具体的に解説します。
Q1. 家族信託と遺言、一番の違いは何ですか?
A. 「いつから効力が生じるか」が最大の違いです。
遺言は、遺言者が亡くなった瞬間に効力が生じます。それまでは、財産管理には一切関与しません。
一方、家族信託は、信託契約を結んだ時点から効力が生じます。委託者が元気なうちから、判断能力が低下した後も、受託者による財産管理が途切れることなく続きます。
つまり、遺言は「死後」専用、家族信託は「生前から死後まで」をカバーする仕組みという違いがあります。
Q2. 認知症になったとき、遺言だけでは何が困りますか?
A. 遺言は、生前の判断能力低下には一切対応できません。
遺言はあくまで「死後の分配」を決めるものです。本人が生きている間に認知症などで判断能力が低下すると、不動産の売却や、預貯金の払い戻し・解約といった行為が、本人はもちろん、家族であっても勝手に行うことができなくなってしまいます。
この「生前の財産管理が止まってしまう」というリスクに備えられるのが、家族信託です。判断能力があるうちに信託契約を結んでおけば、判断能力が低下した後も、あらかじめ決めておいた家族(受託者)が財産管理を続けられます。
Q3. 家族信託を組めば、遺言は書かなくてもいいですか?
A. いいえ、多くの場合、遺言もあわせて必要です。
家族信託の対象になるのは、信託契約で指定した財産だけです。信託に組み込まなかった財産(信託外財産)については、家族信託ではカバーされません。
そのため、実務では次のような組み合わせ方がよく使われます。
- 賃貸不動産や、生前から柔軟に管理したい財産 → 家族信託で対応
- それ以外の財産(信託に入れなかった預貯金や動産など) → 遺言で承継先を指定
「家族信託さえ組んでおけば、遺言はもう不要」という誤解は、実務上のトラブルにつながりやすいポイントです。
Q4. 遺言では実現できないことはありますか?
A. 「渡した相手が亡くなった後」の承継先までは、遺言では指定できません。
たとえば、「配偶者に自宅を相続させる」という遺言は書けても、「配偶者が亡くなったあと、その自宅は長男に渡す」というところまでは、遺言では指定できません。配偶者自身が別の遺言を残せば、そちらが優先されてしまいます。
家族信託では、「まず配偶者に、配偶者の死後は長男に、長男の死後は孫に」というように、複数世代にわたる承継先をあらかじめ指定できます(これを「受益者連続信託」といいます)。先祖代々の資産を特定の血筋に残したいという希望がある方には、遺言にはない大きなメリットです。
Q5. 費用はどちらが安いですか?
A. 一般的には遺言のほうが初期費用は抑えられます。
- 遺言:自筆証書遺言であれば大きな費用はかかりません(法務局保管制度の利用には手数料が必要です)。公正証書遺言でも、公証人手数料のみで済みます
- 家族信託:契約書の作成、不動産があれば信託の登記などが必要になり、専門家に設計を依頼する費用もあわせると、遺言より初期費用は高くなる傾向があります
ただし、家族信託は「生前の財産管理」までカバーできる分、成年後見制度を利用した場合にかかり続ける後見人への報酬などと比較すると、長期的にはコストを抑えられるケースもあります。
Q6. 内容を後から変更できますか?
A. 遺言はいつでも自由に書き換えられますが、家族信託は原則、関係者全員の合意が必要です。
- 遺言:遺言者の意思だけで、いつでも自由に書き換え・撤回ができます
- 家族信託:いったん契約を結ぶと、原則として委託者・受託者・受益者全員の合意がなければ内容を変更できません(委託者が単独で変更できる旨を、あらかじめ契約に定めておくことも可能です)
将来の状況変化に備え、家族信託を設計する段階で、変更・解除の条件をきちんと盛り込んでおくことが重要です。
比較表でまとめると
| 項目 | 遺言 | 家族信託 |
| 効力発生のタイミング | 死亡時のみ | 契約時から(生前の管理も可能) |
| 認知症など生前の判断能力低下への備え | できない | できる |
| 複数世代への承継指定 | できない | できる(受益者連続信託) |
| 内容の変更・撤回 | いつでも自由 | 原則、関係者全員の合意が必要 |
| 対象になる財産 | 死亡時に残っている全財産 | 信託契約で指定した財産のみ |
| 初期費用の目安 | 比較的少ない | 契約設計・登記等でやや高め |
結局、自分はどちらを選ぶべき?
- 今すぐ生前の備えが必要かどうかが、最初の判断材料になります。生前の財産管理(特に認知症対策)を重視するなら家族信託、亡くなった後の分配だけを決めておきたいなら遺言、というのが基本的な考え方です
- 賃貸不動産の有無も判断材料になります。賃貸経営をしている場合、判断能力低下後の管理継続が特に重要になるため、家族信託の必要性が高くなります
- どちらか一方ではなく、信託する財産と、遺言で対応する財産を分けて設計するのが、実務では一般的です
まとめ
- 遺言は死後の分配、家族信託は生前から死後まで対応できる制度
- 認知症などへの備えを重視するなら、遺言だけでは不十分
- 家族信託を組んでも、信託外の財産には遺言が必要になることが多い
- 費用は遺言のほうが抑えやすいが、長期的なコストは状況による
- 「どちらか」ではなく「組み合わせ」で考えるのが実務的
「うちの場合、どこまで信託にして、どこを遺言でカバーすればいいのか」は、ご家族の財産構成によって答えが変わります。
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